25 恋文③

 あの最初の夜のわたしが、いささかの爽やかな興奮も覚えず、悲哀とあきらめとだけを感じながら家へ帰ったように、他の日にもやはりわたしは自分が大勢の男のなかの一人に過ぎない――当座のあいだ可愛がられてる恋人に過ぎない――という確信を抱いて家へ帰ることが度重なった。……
 
グレアム・グリーンの『情事の終り』にはそういうくだりがあり、私は二十余年前、そこに傍線をほどこしたのだった。ところがそのとき、その後につづく以下の叙述にはほとんど興味を持たなかったのらしい。

 ……こんなにも憑かれたように恋しくて、夜中にふと目ざめてもすぐに彼女のことが頭にうかんで眠れなくなるこの女、それほどこちらも焦がれていたが女のほうでもすべての時間をわたし一人に捧げているように見えた。それなのにわたしは少しも女を信じることができなかった。……

 忘れ去っていた過去が再来するという奇蹟が起こりはしまいかと夢見るのも、あるいは人生なのだろうか。

2010年7月26日