井の中の…

 衆院選取材で旅ばかりしていた昨年夏、高速バスの待ち時間に「ジュンク堂札幌店」で洋書をまとめ買いしたことがある。米ホートン・ミフリン社の『THE BEST 2008』シリーズだ。日々の日本語での生活を続けながら、細々と読み続けているのだが、いろんな意味で自らの小ささに気付かされ、愕然としている。
 これは2008年に全米で発行された雑誌や新聞、ウェブサイトに発表された文章をまとめたもので、私が購入したのはエッセイ、トラベル・ライティング、スポーツ・ライティング、ショートストーリーの4冊。一流の編集者が選んだそれらの作品は、どれも興味深いものばかりだ。
 Jeanne Marie Laskas "G-L-O-R-Y!"は『GQ』誌に掲載された作品で、女性ライターがアメリカン・フットボールのシンシナティ・ベンガルズのチアガール"Ben-Gal"に密着し、その厳しい練習風景や体重の管理、ドレッシングルームで化粧品を塗りたくり、おっぱいを持ち上げる場面までを活写している。平日は普通の仕事をこなしながら、安いギャラでチームのカレンダーに掲載されることを夢見ながら努力する女性たちの姿とその本音は、男性が決して見ることができないものであり、こんな題材があったのか、と思わせた。
 S.L. PRICE"A Death In The Baseball Family"は『Sports Illustrated』誌に掲載されたもの。2Aの野球チームで、試合中にコーチをファウルボールで殺してしまったラテン系選手の苦悩、野球一家に育ったコーチ一家の悲しみが描かれている。
 Wright Thompson "Behind the Bamboo Curtain"はスポーツケーブル局「ESPN」のサイトに載ったもの。08年の北京五輪直前、ライターが通訳と共に北京から成都まで約2500キロを自動車で走り、深刻な大気汚染や高級外車を乗り回す若き成金青年、古くからの鉱山に生きる人々などに会い、話を聞いている。取材費をかけたこういう「仕事」を見ると、日本はどうかな? と思ってしまう。
 J. Malcolm Garcia "African Promise"は、石油利権に各国が乗り出す、政情不安なチャドやスーダンなどを取材した様子を"Virginia Quarterly Review"に発表した作品。謎の昆虫に背中を噛まれ、焼け付くような痛みにのたうち回る筆者。病院の絶望的な状況、AK-47の銃声に身を伏せながら旅する姿を読んでいると、札幌如きの暑さでヒーヒー言っている自分が情けなくなってくるのであった。
 気が付くのは、多くの作品がウェブサイトで全文公開されていることだ。記事のアップのタイミングなどがどうなっているのか不明だが、「紙を売るためにウェブで公開しない」、あるいは「課金する」といった発想と、明らかに違うことがわかる。
 それから、取材の規模の大きさだ。彼らの行動範囲は、まさに「世界」なのだ。日本の場合、危険地帯へ行くのはフリーランスばかりで、たまに彼らが撃たれて死んだりすると、会社員「ジャーナリスト」たちは神妙そうな顔で報道の自由云々と言うのだが、自らは決して行こうとはしないのである。
 かつては日本でも、「アメリカの良心」なんて恥ずかしい呼び名を与えられ、そのうち女子高生との性的関係が明らかになって新聞社を首になったボブ・グリーンの一連のコラムや、東京書籍などからアメリカのジャーナリズム集などが翻訳出版されたものだが、最近は不景気の影響か、翻訳される本や媒体も減少しているような気がする。こういう時代だからこそ、日本に紹介されないこうしたノンフィクションを読み、自らの場所を確かめる必要があるのかも知れない。日本のジャーナリズムなんて、本当にちいせえちいせえ、ハナクソみたいなものなのだから。

2010年8月18日 記
 

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[著者プロフィール]

渡辺開拓

ライター。札幌出身。新聞記者などを経て、北海道のローカル誌で執筆中。ジャンルは政治経済、地方自治から音楽、海外情報、バカニュースまで幅広い。趣味は古書収集、街歩き。