interview

2005年4月、日本のアパレルメーカーを辞め、タイ・チェンマイの帽子メーカーでデザイナーとして働くことを決めたEMIさん。「思い立ったら、すぐに行動しちゃうんです」というEMIさんは、言葉も職場の様子も分からぬままチェンマイへ渡った。そして3年後の2008年11月、彼女は日本で帽子ブランド「MUAK(ムアック)」を立ち上げる。帽子デザイナーとして日本での挑戦をはじめたばかりのEMIさんに、帽子づくりの魅力と自身のデザインについてお話を伺った。

――アパレルメーカーを辞めて、突然チェンマイ行きを決めたのはなぜですか。

当時は日本のあるアパレルメーカーで洋服のデザイナーをしていたんですが、そのメーカーの洋服づくりはこれから流行りそうな既製服を買い集めて、あしらいを少し変えたり、生地を変えたりして、オリジナルとして安価に販売するというものでした。市場に出ている服を真似しちゃうってことですね。

私たちの仕事は大量生産するための流行りものを見定め、その服にどんな要素を入れたらオリジナルに見えるかを考えてデザインし、中国の生産工場とやりとりして洋服を完成させることだったんです。なにがつぎに流行るかを予想することは楽しかったんですけど、それは自分が思い描いてきたデザイナーの仕事ではなく、そのメーカーがつくる洋服も納得のいくものじゃなかった。だから、いずれは会社を辞めて、パリにデザインの勉強に行きたいと考えていたんです。

そんなとき、ひょんなことから知り合った人にそのことを話したら、何日か後に「チェンマイに行かない?」って、メールアドレスが書かれたチェンマイの新聞を渡されたんです。チェンマイに行ったら現地でデザイナーを募集しているその新聞を見たそうで、「書いてあるアドレスに連絡してみたら?」って(笑)。

――それはまた乱暴ですね(笑)。

それが、「これはチャンスだ!」と思っちゃったんですよ(笑)。単純にタイっておもしろそうとも思ったし、日本で流行りもののコピー商品をつくりつづけるのも嫌だったので、「これはチャンスだ!」って。で、その人からも「パリに行きたいんだったら、アジア経由でパリに行けば? 遠回りしてもいいんじゃない?」って言われて、「あ、そうか。チェンマイ経由でパリに行けばいいんだ!」って納得しちゃった。思い込みが激しい性格なので(笑)。

チェンマイの会社は日本人が経営していて、デザイナーとして働きたいというメールを出したら、社長の日本出張に合わせて面接をしてくれることになりました。池袋ではじめて社長と会ったときは、「ほんとにチェンマイに来る気あるの?」って疑われたんですけど、私はもう行く気満々で「はい、行きます!」って答えてました。生産工場はチェンマイだけど、生地はインドや台湾、中国でもつくっているって聞いて、「やった、出張に行ける!」ってひとりで盛り上がってましたね(笑)。海外出張とか買い付けとか、アパレル業界の"世界を飛び回る"感が大好きなもんですから。

「いずれはパリに洋服のデザインを勉強しに行きたい」って言ってたのに、急に「チェンマイに帽子のデザインをしに行こうと思う」って言いだしたもんだから、姉や親友には猛反対されました。「なんで、パリがチェンマイになるの!?」って(笑)。でも、思い立ったらやめられない性格だから、いろんな反対を押し切ってチェンマイへ行っちゃったわけです。

――帽子のデザインを手がけるのははじめてですよね。

会社には帽子のニットデザイナーとして日本人女性が勤めていたので、分からないことがあったら彼女に聞いて覚えるということのくり返しで、だんだんデザインできるようになっていきました。

でも、このチェンマイの会社も、日本で勤めていたメーカーと同じように流行りものをコピーして大量生産する会社だったんです。面接のときに「うちはこだわったモノづくりをする」って社長は言ってたんですけど、嘘でした(笑)。だから、日本でやってきたデザイナーの仕事とぜんぜん変わらないんですね。「チェンマイまで来て同じ仕事?」って思いました(笑)。

ところが、私が勤めて少したったころ、社長の方針がガラッと変わったんです。これからは大量生産も維持しながら、提案型のメーカーにならなくては生き残れない。素材からこだわる「いいもの」を作ろうって考え方に変わってきたんです。

それからは、新しいブランドを立ち上げて、オリジナルの生地を考えたり、手織りで世界中のどこにもない生地をつくったり、本当に楽しかった。オリジナルの生地を使って、オリジナルのデザインをするという、デザイナーとしてようやく納得いく仕事ができるようになりました。

そのブランドの作品はニューヨーク、ミラノ、日本の展示会に出品しました。百貨店やショップなどのバイヤーが集まる展示会で、日本の展示会では神戸のショップから注文をもらいました。すごく嬉しかったですね。そういうことを経験して、自分のブランドを立ち上げたいという気持ちを持つようになったんです。

――それで、3年後に帰国して、「MUAK(ムアック)」というブランドを立ち上げた。

「MUAK」はタイ語で「帽子」という意味なんですが、「ムアック」っていう響きがすごくかわいいと思ってブランド名にしました。ただそれだけのことで、深い意味とか由来とかないんですよ(笑)。

「MUAK」のコンセプトは、「タイの伝統技術をいまのデザインで」ということ。タイには手織りや手編みの高い技術を持った職人さんがいるのですが、その数は年々少なくなっています。その伝統的な技術と現代のデザインを帽子という作品に融合したらどうなるんだろう、というのが「MUAK」というブランドのはじまりです。だから、自社開発の手織り生地を使った帽子など、手織り・手編みにこだわった帽子をつくっています。

――帽子デザイナー・EMIのデザインが生まれる素はなんでしょう。

やっぱりオシャレが大好き、いいものが好きという気持ちがいちばん大きいですね。それは、父方の叔母の影響だと思います。毛皮のデザイナーをしていた叔母はすごく美意識が高い人で、「汚いものを見るな」とか「とにかくいいものを見なさい」って幼いころからよく言われました。叔母がデザインした毛皮を触らせてもらったり、叔母のアクセサリーや時計をもらったり……。叔母は、私にきれいなものや本物を見る目を植えつけてくれた大きな存在です。

もうひとつは、やっぱりインスピレーション、ひらめきですね。人と会ったり、写真集を見たり、建築デザインの本を読んだり、どこかに旅したりすることで、ひらめくことがある。だから、いっぱい人と会って、いっぱい遊んで、いっぱい旅をして、インスピレーションを大事にしたいと思います。

――今後の目標について聞かせてください。

もっとニットの編み方を勉強して、デザインにどんどん活かしていきたいですね。それと、「MUAK」の帽子を気に入って置いてくれるお店を増やすために営業をかけていかなきゃ(笑)。

「MUAK」の帽子が買えるお店

東京都
sare  東京都新宿区新宿2-4-9 中江ビル502(03-3354-8110)
repression  東京都原町田5-5-2 キャピタルオシダ101(042-723-7854)
埼玉県
SWEET SIGHT  埼玉県川口市並木2-6-2 カズサビル1F(048-256-3341)
大阪府
poompoom  大阪府高槻市大塚町3丁目26-3-616(090-1589-1719)
Coterie×RO square  大阪府大阪市都島区東野田町2-38 京阪モール2F(06-6358-5470)
810 clothes D  大阪府大阪市北区末広町3-30 06-6362-5177
兵庫県
14+  兵庫県神戸市中央区御幸通8-1-6 神戸国際会館 SOL【ソル】B2F(078-862-9980)
coterie住吉店  兵庫県神戸市東灘区住吉宮町4-4-1 KiLaLa住吉1F(078-843-5475)
Point d'Attache  兵庫県神戸市中央区栄町通2-1-13(078-392-0309)
福岡県
roca  福岡県北九州市小倉北区京町2-1-5(093-513-7555)

profile

EMI

EMI
帽子ブランド「MUAK」
デザイナー

1979年、東京生まれ。高校卒業後、就職。2003年、勤めていたアパレルメーカーを退社し、デザイン専門学校「エスモード・ジャポン」に入学。洋服のデザインやパターンを学ぶ。その後、アパレルメーカーにデザイナーとして就職。2005年6月、タイ・チェンマイで、帽子のデザインやパターンを学ぶ。2008年11月に帰国、帽子ブランド「MUAK」を立ち上げる。その後、「いま被りたい、すぐに被れる帽子たち」を提案するHUA(フア)、「大事な日、特別な日に被って欲しい帽子たち」を提案するDiadem(ディアデム)の2ブランドを立ち上げる。

EMI's Collection

生地と帽子ができるまで

  • (1)染色の材料をつぶしています (1) 染色の材料をつぶしています
  • (2)染めてます。かなり熱そう… (2) 染めてます。かなり熱そう…
  • (3)生地を織ってます (3) 生地を織ってます
  • (4)帽子にしたら、こんなふうになりました (4) 帽子にしたら、こんなふうになりました