お客さんに写真館へ来てもらうのではなく、カメラマンがお客さんの希望する場所に出向いて写真を撮る。そんな「出張撮影」で多田直子さんは家族を撮っています。出張撮影にこだわる理由を、多田さんはこう話します。
「自宅やいつも行く公園など、ふだん生活したり、遊んだりしている場所のほうが、お子さんも親御さんもリラックスできていい表情になるんです。それに、その家族らしさというか、その家族ならではの“空気”をダイレクトに感じることができる。私は、そういう“空気”も含めた家族写真が撮りたいんです」
2006年に男の子を出産した多田さんは、撮りためた子どもの写真を見てあることに気づきました。子どもだけの写真はたくさんあるのに、自分と息子が一緒の写真、家族揃っての写真はほとんどないということでした。そこで、カメラマンの友人に頼んで家族のふだんの生活を撮影してもらうことにしたのです。
「本当に何気ない日常が写っているだけの写真なんですけど、それがたまらなく愛おしいんです。それで、こういう写真をほかの家族にも残してあげたいと思って、翌2007年6月に子どもを中心とした家族写真の出張撮影を請ける撮影事務所『バロンフォトワーク』を設立しました」
お宮参りや初節句、七五三などの子どもの祝いごとのほかに、家族の日常を撮ってほしいというお客さんも多いそうです。最近では、子どもの1歳の誕生日を自宅で撮影してほしいという依頼が増えているといいます。
「赤ちゃんにとってはこの世に誕生して1年、親御さんにとっては親になって1年という節目。成長した赤ちゃんと、『1年経ったんだなぁ』と感慨深げな親御さん、それぞれに表情をもっている。スタジオや写真館だと緊張して顔もこわばりがちですが、リラックスできる出張撮影ならその表情を最大限に引き出すことができると思います」
「バロンフォトワーク」を立ち上げる前、多田さんはウェディングフォトグラファーとして結婚式のスナップ写真を撮っていました。そのときの経験は、「流行を追っただけ、おしゃれなだけの写真は、十年もすれば古くさく感じて見なくなってしまう」ことを彼女に教えました。
「写真館で、着飾って撮るのも楽しみ方のひとつではあると思うんです。でも、そういう写真は、たとえば30年後、子どもと一緒に見たとき、『この頃かわいかったね』以上の話にならないと思うんですよね。私の子どもやお客さんに私が残したいと思う写真は、こんなおもちゃで遊んでいたとか、おもしろい家具があったとか、そのときの家族の生活がそのまま写っている写真。そして、表情からその人の気持ちが伝わるような、思い出があふれだすような写真です。そういう写真は、何十年経っても、何度も見たくなると思うから」
「こんなに自然な笑顔で、かわいく撮ってもらえたのははじめて」「家族3人の写真が1枚もなかったので記念になりました」など、バロンフォトワークにはお客さんからの感想がたくさん寄せられます。
あるとき、4年間写真を撮りつづけている家族の7歳になる女の子から手紙をもらいました。そこには、「私の結婚式も撮ってね」と書かれていたそうです。「実現したらいいなって、ひそかに願っています」と言う多田さんは、いまでもその手紙を大切にしています。
多田直子(ただ・なおこ)さん
1972年生まれ、東京都出身。出張撮影スタイルの撮影事務所「バロンフォトワーク」主宰。社会人生活をしながら写真を学び、2000年より撮影事務所に所属、アシスタントを経てフリーのウェディングフォトグラファーとして活動。2006年、長男の出産を機に子どもを中心とした家族写真を撮るように。翌年、「バロンフォトワーク」を設立。
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